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『日本はなぜ、「基地」と「原発」を…』を読んで その15 [『日本はなぜ、「基地」と「原発」を・・・』]

 《 PART3 安保村の謎①-昭和天皇と日本国憲法》(5)

日本再生の先頭に立った昭和天皇
〈人間宣言が出された直後、GHQ民間情報教育局から、天皇制存続の意向があることと、天皇が広く巡幸され国民の声に耳を傾けられるべきだとの意向が宮中に伝えられる。その一月後から天皇巡幸が始まった。こうして、昭和天皇を平和と民主主義のシンボルとする「日米合作」の新国家として、戦後日本が再出発する。天皇が主導して日米合作の戦後体制が築かれたので、いくら矛盾が露呈しても、安保村の基本構造は変わりにくい。〉

人間宣言の英文と訳文
〈最も重要な神格否定部分は、英文とほぼ同じである。ただ一ヵ所、「天皇は神の子孫であるという誤った観念」は日本側の主張で「天皇を生きた神とする架空の観念」に変えた。その結果、いま生きている昭和天皇が神だということは否定されたが、天照大神が皇室の祖先であるという皇室のアイデンティティーは守られ、祭儀はこれまでどおりおこなわれるようになった。〉

昭和天皇のおこなったアレンジ ― なぜ五箇条の御誓文を加えたのか
〈さらに昭和天皇は自身の判断で冒頭に五箇条の御誓文を付け加えた。なぜそうしたのか3つ意味がある。ひとつ目は、GHQに言われて人間宣言するのではなく、五箇条の御誓文に現れた民主的な精神を国家再生のメッセージとするために宣言するという体裁をとることができる。〉

一二〇点の回答
〈ふたつ目の意味は、GHQの文案をバージョンアップさせたところにある。GHQは、昭和天皇が自分の口から「神ではない」と言ってくれれば十分だったところを、日本が明治時代から立派な民主国家だったという文言が採り入れられることにより、王制を残して民主化できる可能性を国際世論に示すことができると考えた。三つ目の意味は、日本の天皇制は明治時代から民主的な立憲君主制を実現してきており、軍部が独走して戦争になったが、今後は軍部の独走以前の体制にもどり、世界の民主勢力と力を合わせて日本を復興させることができるというシナリオを示したところにある。〉

日本人の歴史観を決定した人間宣言
〈その後の日本人の歴史観は、このとき人間宣言で表明されたロジックに基づいている。つまり、
①明治時代:民主主義にもとづいた正しい時代
②昭和初期:軍部が暴走した間違った時代、突然変異的な時代
③戦後日本:本来の民主主義にもどった正しい時代
という歴史観。この日米合作の歴史観は8割方事実かもしれないが、昭和天皇にまったく戦争責任がないという点と、昭和初期だけが異常な時代だったという点はおかしい。時代というのは連続しており、前の時代にのちの時代の原因がある。〉

 著者は公文書にもとづいて、敗戦直後の日米の(アメリカ、主としてGHQが主導し、天皇とその側近たちが応じていく)関係を以上のように推測している。戦争というものは、勝ち負けの決着がついた後、特に勝った側が、その勝利の成果をどのように自国の益につなげるか、そこがたいへん重要な考えどころであろう。併合して直接統治することなしに、どうやって長期的に利用し、影響を与えつづけるか、と考えたときに、軍事力と軍部をそぎ落とし、日本国民統合の象徴として、神であることを否定した天皇を残し、混乱を避けつつ、国の形を変えていく道を、アメリカは選んだのだろう。ありそうなことである。
 天皇の側も、国民の復興を考え、天皇家の地位や存続も考えつつ、戦勝国の意向に、賢明に対応していったのであろう。

 この辺りの歴史は、天皇に関わることなので敬遠する人が多いのだろうか、なかなかつまびらかにされない部分である。その点、矢部氏は、自説をほとんど歪めることなく披歴しているので、敬意と謝意を表したい。
 また、矢部氏は《前の時代にのちの時代の原因がある》と述べた直後に、《事実いま日本では、まさに②のような「異常な時代」がふたたび訪れる可能性が生まれ始めています》と指摘している。「いま」を見る眼もブレていない、確かなことがよくわかる。

 ページはあまり進まなかったが、ここでまた、一休み。 お許しあれ!
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コメント 4

majyo

一番難しいところを書かれています。
またこのあたりを何度か読み返しましたが
これが書けないから、私はイチ抜けしました。

戦後の日本の体制は日米の合作ですね。
昭和天皇とその側近たちは、マッカーサーの上をもいく
綿密なものを持っていたと思っています。
著者の矢部氏は、その多くをアメリカの公文書館の
記録から推察していますから
過去に書かれた天皇の事に関するものとはちょっと違うかもしれません。
どちらが正しいとは言えないかもしれませんが
私は矢部氏を支持します。
①、②、③については、②は都合の良い解釈であると思いますが
そうでなければ、ならない理由もあったのでしょう。理由はご指摘の通りだと思います。

今がまさに異常である②となっているような気がします。
この本を読んだのと読まないとでは、大きく変わるものがありますね。
もうとっくにショックからは脱していますから、やらねばと思います
一番難しいまとめをありがとうございました。先生!




by majyo (2015-06-23 21:40) 

ファルコ84

敗戦後の
GHQと昭和天皇
庶民には、計りしれぬ
国の進む道を決めてしまう
様々な重大事が行われていたんですね!
Part4を読んでいます
文書に纏めて表現するのが難しい

by ファルコ84 (2015-06-23 23:54) 

momotaro

majyo さま
よく分かっている人にフォローしていただいて、書き甲斐があります。
敗戦による変革期は、受け身で、進駐軍による意向でこうなった
(そして日本は民主化されてよくなった)と簡単に思いがちですが、
その負の部分が70年たっても減っていない、むしろ増幅されている
となると、戦後体制の出発点を、しっかり検証しなければなりませんよね。
雑用多く、一気にいけませんが、気長にお付き合いください。
「先生」は先に生まれていれば否定しきれませんが、
どうですかね、同じ50代?ですから・・・?



by momotaro (2015-06-24 09:35) 

momotaro

ファルコ84 さま
Part4に進まれたそうでよかったですね。
こちらは、まだPart3がたくさん残っています。
日本国憲法誕生の経緯についてなので、飛び越えるわけにもいきません。
コメントに感謝します。
by momotaro (2015-06-24 09:42) 

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