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『一万四千発の脅威』 [人間考]



3月20日に『エッセイ熊谷第4号』が発刊されました。私の手許にはまだ入っていないのですが、公になったということで、自作をここに掲載します。12月に書いたものです。

今、まさにプーチンがウクライナを恐怖に陥れている無差別殺傷兵器、並びに世界に脅しをかける核兵器についてです。(読み易いように、段落間に一行取ります)

【 一万四千発の脅威
   
 四分の三世紀近くも生きていると、人類の歩みの速さに驚くこともあれば、その危うさに不安を感じることもあります。

 ほとんど誰もが電話(スマホ)を携帯し、知り合いの誰とでも、またいつでも話ができるようになるとは、また、それがインターネットに繋がり、いつでもどこでも世界の情報を入手したり、こちらから発信したりできるようになるとは、ちょっと子ども時代には想像すらしませんでした。

 その子どものころは、戦後の高度経済成長期で、鉄鋼業、重化学工業、機械工業などが目覚ましく発展し、GNP(国民総生産)がどんどん増えていました。そのころの心配ごとは、大気や河川などの汚染でした。工場からの煤煙ばかりでなく、自動車の普及に伴う排気ガスもあって、空気はスモッグで汚れました。河川は、工場や家庭などからの排水により、ヘドロが溜まり、魚が棲めなくさえなりました。イタイイタイ病(富山県)、水俣病(熊本県、新潟県)、四日市喘息などの公害病が各地で起こりました。産業優先社会でしたから、この環境悪化はこの先どうなるのだろう、改善されることはあるのだろうかと憂慮したものでした。

 ところが、公害対策基本法が作られ、環境庁が発足し、やがて省に格上げされるなど、環境浄化に目が向けられるようになりました。生活排水も下水道の完備に伴って浄化され、車の排気ガスも規制が強化されました。今ではアイドリングストップ車も珍しくなくなり、川も大気も蘇りつつあります。

 当時はまた、石油資源の枯渇が懸念されていました。二十世紀末には掘り尽くしてしまうのではないかと。それが新世紀を迎え、更に二十年余過ぎても、石油輸出国機構は未だにがっちり商売をしています。

 当時の心配事は杞憂に終わりました。

 ところが、ここ四半世紀にはまた新たな心配事が発生しています。温室効果ガスの増加による地球の温暖化です。実際、世界各地で異常気象が観測され、旱魃による森林火災や集中豪雨による大洪水など甚大な被害が発生しています。人類の営みがこの惑星の有り様を変えつつあることが顕著になったのです。地球あっての人類ですから、有り様が変わっては堪りません。

 そこで各国首脳が集まり、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を規制する協定が結ばれるようになりました。国連もSDGsを掲げて人々に呼びかけています。「遅まきながら」の感は無きにしも非ずですが、人類が問題を認識して対策を講ずるようになったのです。これまでの例からすると、二、三十年もするとこの問題もきっと解消されるだろうと見込んでも差し支えないように思えます。

 では人類の歩みはかように着実か、信頼できるかと言うと、ひとつだけまったく当てにならない、進展していないことがあります。それは人類の保有する戦略及び戦術兵器の累積です。

 今年の八月九日、長崎市は長崎新聞に見開き二ページにわたる広告記事を掲載しました。黒い点が一万四千個打たれています。文字は小さく一行「核兵器が存在している以上、それが使われるリスクも存在しています」二個の点のみは赤。これが使われた原爆を表しています。これに象徴されるように、世界中に膨大な量の核爆弾、ミサイル、その発射装置、有人・無人の爆撃機、戦闘機、迫撃砲、等々があります。現にあるだけでなく、更に開発・拡充されています。みな多数の人を無差別に殺傷してしまう兵器です。

 民主主義や人権尊重が声高に叫ばれている社会が、無邪気な子どもたちをも含む生活者を理不尽にも一撃で殺傷してしまう兵器をなぜこれ程たくさん保有しているのか?理由は「抑止力のため」だそうです。攻めて来られることに備えて、その時の報復のために開発・所有しているとのことです。

 日本も、北朝鮮がミサイル開発に勤しんでいることに備えて、防衛のために敵基地攻撃能力を有しようという議論が起きています。

 攻める気はない、防衛のためだと各国とも主張します。その論理の結果が一万四千発の核爆弾なのです。仮にどこの国も本当に侵略する意図がなくても、いつ、どこで、どう間違ってこれらが使われ始めるか、まったく予断を許しません。そんな極めて不安定な状況下にあるのです、今の文明社会は。

 この危険は取り除かなければなりません。

 問題を提起した以上、方策も提案しなければならないようにも思えますが、それは後の問題で、大事なことは、世界世論が危機感を抱き、各国の政治家に兵器削減の要望を突きつけることではないでしょうか。

 人権尊重と集団殺戮は両立しないということを現代の常識としようではありませんか! 】

以上です。


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コメント 6

八犬伝

プーチンが核を使うかもしれない
これが現実に近いものになってきましたね。
北の馬鹿は、ミサイルを飛ばし
そういう意味で
何も進歩していないですね、この世は。
by 八犬伝 (2022-03-24 20:42) 

momotaro

八犬伝さま
>プーチンが核を使うかも・・・北の馬鹿は、ミサイルを飛ばし・・・
危ない飛び道具ばかり増えています。人権、人命の価値を全くわかっていない人たちです。
コメントありがとうございます m(_ _)m
by momotaro (2022-03-26 05:25) 

ファルコ84

プーチンは人類が人類を滅ぼす、手本になってしまいました
こんな手本はいりません。
何処の誰が本当のいかなる理由があろうとも・・・
戦争はいけません、話し合いによる解決を期待します。
by ファルコ84 (2022-03-26 10:54) 

Jetstream

記事を拝見して思うことは、文明・科学が人類の成熟度を越えて先行してしまった悲劇だと思います。
それぞれの国の体制云々に関わらず、専制独裁者が権力を持つと危ないです。彼らは自分の行ってきた悪行で、権力の座から下りたら自分が生き残れないことを知っています、その帰結として世界をみちづれしてもいいという悪魔の発想です。プーチン、キムはそのカテゴリーの人間。こういう輩にはどうすればいいんでしょうね。

by Jetstream (2022-03-26 20:46) 

momotaro

ファルコ84さま
「プーチンは人類が人類を滅ぼす見本」ですね。
>いかなる理由があろうとも・・・戦争はいけません
仰るとおりです。軍隊を動かすのは権力者にとっては容易ですが、人命と文明生活の破壊とそれへの怨恨が始まるのですから、開戦は絶対にやってはいけないことです。
by momotaro (2022-03-27 00:39) 

momotaro

Jetstreamさま
>文明・科学が人類の成熟度を越えて先行してしまった悲劇だと思います。
いわゆる科学技術の進歩は物凄く速いのに、社会を治める社会科学の進歩や「人類の成熟」がまったく遅いんですよね。その結果、たいへん危険な状況になってしまった!
>専制独裁者が権力を持つと危ない
>彼らは自分の行ってきた悪行で、権力の座から下りたら自分が生き残れないことを知っています、
>その帰結として世界をみちづれしてもいいという悪魔の発想です。
見事な心理分析!自分が死ぬことと、世界がなくなることは等価なんですよね。これぞ悪魔の発想!
俗人は、人混みで無差別殺人をやるくらいですが、プーチン、キムは核兵器の発射ボタンを握ってますからね。早くその地位から降ろさないと、みちづれにされちゃいますね、人類の大半が!
by momotaro (2022-03-27 00:42) 

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