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『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』を読んで その27 [『日本はなぜ、「基地」と「原発」を・・・』]

その27
《 PART5 最後の謎-自発的隷従とその歴史的起源》(3)


《沖縄をめぐる軍部と国務省の対立》

〈昭和天皇の「沖縄メッセージ」は、アメリカ軍部にとって、非常に重要な意味を持っていた。アメリカ国内では沖縄の戦後処理をめぐって、軍部と国務省が真っ向から対立していた。
 第二次大戦終結後の米軍の基本構想は、沖縄を国連の信託統治制度のなかの「戦略地区」と位置づけて、事実上の軍事支配の下に置こうとした。
 しかし国務省はそうした軍部の構想に反対で、1946年6月には、沖縄を「非軍事化したうえで」日本に返還すべきだと主張していた。大西洋憲章に始まる「領土不拡大」の大原則があったためである。〉

《国務省の沖縄返還構想が実現していたら、冷戦の歴史も変わったかもしれない》

〈「アメリカ=迫害者」という図式で歴史を見ていたが、国務省やアメリカ国民はきちんと大西洋憲章の理念に従って、沖縄を返還しようとしていたのだ。
 もしこの1946年の国務省の沖縄返還構想(米軍基地をなくしたうえでの返還)が実現していたら、どんなに良かったことだろう。〉

《軍部の勝利を決定づけた「沖縄メッセージ」》

〈1947年になっても、沖縄返還をめぐる国務省と軍部の対立は続いていた。8月5日に国務省が作成した日本との講話条約の草案にも、依然として沖縄を非軍事化したうえでの返還構想が記されていた。
 軍部は真っ向からその案に反論し「帝国主義だという批判のために、アメリカの戦略的立場を変更することはない」と述べていた。
 そうした中、1947年9月19日に絶好のタイミングでマッカーサーに届けられたのが、昭和天皇の「沖縄メッセージ」だった。その中で昭和天皇は、「長期のリースというフィクション」を日本側から提案し、「そのような占領方法は、アメリカが琉球諸島に対して永続的な野心を持たないことを日本国民に納得させるだろう」と述べていた。
 このメッセージはマッカーサーの立場を補強する結果となり、この時期を境に「沖縄から基地をなくしたうえでの返還構想」は勢いを失い、代わりに講話条約第3条のトリックがダレスによって書かれることになった。〉

《昭和天皇の「ダレスへのメッセージ」》

〈それは1950年6月26日に、昭和天皇から来日中だった米国務長官ダレスへ送られた。天皇の側近が口頭でダレスに伝えた。その内容は、約2ヶ月後に正式に文書化され、再度ダレスに送られた。
 このメッセージもまた、非常に重大な意味を持っている。昭和天皇が日本政府だけでなく、マッカーサーも飛び越えて、直接ダレスにコンタクトしたものだったから。
 メッセージのなかで「最近起きた米軍の基地継続使用問題も、日本側からの自発的な申し出で解決され、あのような誤った論争を引き起こさずに済んだだろう」と書かれている。
 論争とは、当時の吉田首相が国会答弁で「私は軍事基地は貸したくないと考えております」と表明していたことをさす。〉

《沖縄への半永久的駐留に続き、本土への駐留もみずから希望した昭和天皇》

〈アメリカは日本の占領を終えるにあたって当初、多国間の安全保障条約を考えていた。しかし加盟予定国の反対によって実現しなかった。しかし、二国間の条約を結んで、日本の独立後も米軍が居座り続ければ、たんなる占領の継続として、また、アメリカが書いた憲法九条二項との矛盾として非難されると考えていた。
 その後の歴史を見れば、憲法九条二項を持ちながら、米軍の駐留を裏側から働きかけたことが、日本国憲法の権威を傷つけ、法治国家崩壊という現状をもたらした原因であることは明らかだ。
 しかし昭和天皇はダレスへの「天皇メッセージ」によって、「日本側からの自発的な申し出」に基づく日本全土への米軍の駐留を提案していた。
 なぜそんなことを自分から提案しようとしたのか。そのカギは、6月25日に朝鮮戦争が勃発していたことにある。〉

《「朝鮮でアメリカが負けたら、われわれ全員死刑でしょうなあ」》

〈「口頭メッセージ」を文書化する作業の時、天皇の側近数名が、パケナム(ダレスに通じる人物)とともに数日合宿して文面を考えたことがわかっている。その議論の中で、天皇の側近のひとりが、「朝鮮でアメリカが負けたら、われわれ全員死刑でしょうなあ」と首筋を叩いて言ったということが、アメリカ側の文書に残されている。
 共産主義革命が起きたら自分たちは首をはねられるとの共産主義への恐怖が、安保村の誕生当初から存在していた。
 戦中から戦後へ続く、共産主義革命への一貫した恐怖が、沖縄や本土への米軍駐留継続の依頼へとつながっていった。それは、日本の支配層全体の総意だったと言ってよいだろう。
 翌年2月にダレスが作った日米安保条約の前文には、
「日本国は、その防衛のための暫定措置として…日本国内およびその付近にアメリカが軍隊を維持することを希望する」と書かれている。
「相手国自身が希望した」という体裁があれば、どんな異常な状況でも「合法化」することは、ダレスにとって、たやすいことだっただろう。
 日本のあまりにもおかしな現状は、国際法上は、国連憲章「敵国条項」の適用としか考えられないが、より本質的な原因としては、
「米軍駐留を日本側から、しかも昭和天皇が日本の支配層の総意として要請した」ところにあったと言ってよいだろう。〉


 本日の要約は以上です。
 いつも気になっていることですが、これは、著作権を侵害しようとしてやっていることではありません。内容を解りやすく紹介するためにしていますので、本書に興味をお持ちの方は、是非、矢部宏治著、㈱集英社インターナショナル発行の『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』を手にとってお読みください。 

 さて、パート5では、戦後の日米関係における昭和天皇の果たした役割が書かれています。戦後70年経たにもかかわらず、まったく独立国らしからぬわが国の(ぶざまな)現状は、昭和天皇とその側近、および支配層が共産主義革命を恐れるあまり誘導したと記されています。(アメリカ側から見れば、天皇制を尊重することで、東洋の有力な島国を、丸ごと、共産主義等に対する自国の防波堤にすることができるのですから、「渡りに船」だったことでしょう)

 果たして、敗戦国の元首だった天皇が、戦後の体制にそこまで口出しをしたのだろうか、という疑問や驚きを一般国民としては持ちます。しかし、書かれていることは、公開された史料に基いていて憶測ではありませんから、これがほぼ事実なのでしょう。

 また、天皇家の歴史的背景を見ても、この対処法は、大いにうなずけることです。もともと天皇家は、実権を持って君臨してきた存在ではありません。時々の権力者が天皇家を担ぎ、その権威を利用してきたものです。明治天皇も、薩長等の反幕勢力が担ぎ出して政治の中心に置かれた存在です。
 権力者は天皇の権威を利用するし、天皇家は、権力者の庇護を得てその地位を保ってきたのです。日本における天皇制は、ほとんどいつの時代も、そのような権力者との関係で維持されてきました。
 ですから、戦時中は軍部が最高権力者、戦局が悪くなってからは、戦勝国の権力者へと、その関係構築の関心が移っていったことは、容易に想像できます。また、庇護の約束が取り付けられそうもなく、もっとも恐ろしいのが共産主義革命だという認識を持ったことも想像に難くありません。(あるいは、アメリカの恐れていることを先読みしていた可能性もあります。)
 事実上の政治権力、その庇護の上に成り立ってきた伝統から、明治維新以来の政治権力がついえて、アメリカの絶対権力に日本が支配された現実では、天皇家の末裔として、昭和天皇がとった思策は、きわめてあり得るそれだったのではないかと思われます。

 それにしても、大いなる負の遺産ですから、これをなんとかすることが、主権者国民の今後の課題です。

 長文にお付き合いいただきありがとうございました。
 そうだ、季節の写真を2枚添えます。
 関東は干からびた紫陽花が多い中で、なんとか・・・
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 この紅い実はな~んだ?
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コメント 8

majyo

良心的なアメリカと私は言いますが
国務省(外務省みたいなところ?)は 沖縄を基地化しないで返還と言う
事を考えていたと思うのに
タイミングよく、天皇メッセージですね
これは、私も天皇の沖縄リースを書いた時に、
勇み足ではないかと言われましたが(メールで)
公文書館からの事実だと思います
そして本土への基地化も昭和天皇の意志でした
そして共産化への不安ですね
うろ覚えですが、これを読み、
すっかり思い出しました。
いつの時代も天皇制を利用しようとする人たちがいます
次は元首?
おお、勘弁してくださいよ。またあの時代に戻るの?と

by majyo (2016-07-18 19:12) 

gonntan

天皇家にとっては歴史的に見ても現憲法の象徴制がベストなんですよ。
そこをわかった上でなおも元首に担ぎだそうというのは、迷惑な話だと
思いますよ。ありがた迷惑でしょうね。
by gonntan (2016-07-18 20:46) 

momotaro

majyo さま
昭和天皇は、国の在り方に関して、随分積極的に意見を表明しましたよね、アメリカに向かって。それも日本の主権回復を念頭に、ではなく、天皇制の存続を念頭に。それが日本の国体維持につながると思ったのかもしれませんが。

矢部さんは、こちらから望んでこうなったのだから、「望まない」との国民の意思統一ができれば、事態を容易に変えることができると述べていますが、米軍の駐留に違和感を持っていない人が多いので、この意思統一は難しいでしょうね。
by momotaro (2016-07-18 22:08) 

momotaro

gonntan さま
> 天皇家にとっては歴史的に見ても現憲法の象徴制がベストなんですよ
天皇にとっても国民にとってもこれが無難ですよね、多少の問題は折に触れ解決しながら。
敢えて元首になんて言う輩は、天皇の権威を悪用しようとしているに決まっています!
by momotaro (2016-07-18 22:10) 

ファルコ84

この書は一読に値しますね。
このように要約していただけると
また、理解が深まります。
天皇は、時代とともに
権威を利用されてきました。
そして、現憲法下では象徴として
安倍政権の憲法草案では、
何と元首と位置づけています。
天皇陛下もきっと望まれないことでしょう!
by ファルコ84 (2016-07-19 22:45) 

Enrique

タブーが暴かれている本ですが,目の前にある明らかなタブーを見て見ぬ振りをする事が出来るか,或は本当に気づかず直接自分の身に降り掛からないと分からないか,降り掛かっても我慢する,させる才能が多くの国民にはあるようです。
by Enrique (2016-07-20 06:00) 

momotaro

ファルコ84さま
> この書は一読に値しますね
私たちは真実を知り、真実を未来に遺さなければなりません。
天皇制を絶対視し畏れるあまり、真実に蓋をすれば、社会の歪みの是正の仕様が
ありません。
終戦を境に一変した日本の歴史を、日米で明らかにし、共有する必要があります。
アメリカは、日本の戦後処理で味をしめた風が見られますが、その後は失敗ばかりです。日本社会の特殊性がよくわかっていないからなのでしょう。
(この処理も一見上手くいったようですが、実は失敗なのでしょう・・・)
by momotaro (2016-07-20 06:17) 

momotaro

Enrique さま
まったく、ご指摘のとおりかと思います。そのような変な才能をお持ちの方が多いのですよね。
真実に照らして正しい方向を見極めて、歩んでいかないと、ロクなことにならないのに。
残念です。
by momotaro (2016-07-20 06:26) 

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