SSブログ

『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』を読んで その26 [『日本はなぜ、「基地」と「原発」を・・・』]

《 PART5 最後の謎-自発的隷従とその歴史的起源》(2)


 《昭和天皇の光と影

〈敗戦後の過酷な状況の中、冷戦の始まりという国際環境の変化をうまくとらえて、思い切った軍事・外交面での対米従属路線をとったことで第二次大戦の敗戦国から冷戦の戦勝国(世界第2位の経済大国)へと駆け上がることに成功したことは昭和天皇の光の部分と言える。
 しかし、昭和天皇は一人の人間であると同時に国家そのものであったわけで、個人の善悪を超えた功罪、光と影があると思う。
 次に影の部分を紹介する。〉

 《安保村の掟・その2

〈「安保村の掟・その1 重要な文章は、すべて最初は英語で書かれている」
 「安保村の掟・その2 怖いのは原爆よりも共産主義」
 近衛文麿という首相を二度つとめ、昭和天皇にも意見の言える数少ない人物が「近衛上奏文」という文章をたずさえ昭和天皇に意見を述べている。その内容は、もはや敗戦は避けられないが、いま降伏すれば、アメリカ、イギリスは天皇制の廃止までは要求してこないはずだ。怖いのは敗戦そのものではなく、敗戦にともなって起こる共産主義革命だ、というものだった。
 共産主義革命が起きた国では、国王や側近たちは地位を追われるだけでなく、首をはねられてしまう。そのことへの肉体的な恐怖が、この近衛の上奏文の背景にはあったのだろう。
 このときは「もう一度、戦果を上げてからでないと、なかなか話はむずかしい」と言って近衛の意見に従わなかった昭和天皇だが、8月9日のソ連参戦で最終的な決断をすることになる。〉

 《安保村の掟・その3

〈「安保村の掟その3 沖縄は『固有の本土』ではない」
 先の「上奏文」から4ヶ月経った1945年7月上旬、ますます悪化する戦況を受け、中立条約を結んでいたソ連に特使を派遣し、アメリカとの和平交渉を斡旋してもらおうという計画が持ち上がる。昭和天皇が近衛を呼んで、近衛のモスクワへの派遣が決定した。
 近衛の訪ソは実現しなかったが、この時日本政府内で決定された和平交渉の具体的条件は、「国土については沖縄、小笠原、樺太を捨て、千島は南半分が残ればよいとするものだった。
 6月23日には沖縄守備隊が壊滅し沖縄戦が終わりを迎えている。本土の防波堤として壮絶悲惨な戦いを強いられた沖縄は、その直後、すでに昭和天皇及び日本の支配層から切り捨てられる運命になっていた。〉

 《昭和天皇の「沖縄メッセージ」

〈PART3で、GHQが人間宣言と日本国憲法を書いて、昭和天皇を東京裁判から守ったところまで説明したが、その日本国憲法の中で、マッカーサーが日本に戦力放棄をさせたため、両者の間に亀裂が入った。
 政治的リアリストである昭和天皇は、5大国が拒否権を持つ国連が、米ソの対立によって機能しない以上、独立後の日本の安全は、本土への米軍の駐留によって確保したいと考えるようになる。この天皇の思いは、政府の頭越しに、1949年9月19日に「沖縄メッセージ」という形で出された。
 これは、天皇の側近寺崎英成がマッカーサーの政治顧問に口頭で伝えた政策提案で、アメリカの公文書により内容が明らかになっている。
「寺崎氏は、アメリカが沖縄その他の琉球諸島の軍事占領を継続するよう天皇が希望していると明言した。
 さらに天皇は、沖縄に対するアメリカの軍事占領は、日本に主権を残したままでの長期リース-25年ないし50年、あるいはそれ以上-というフィクションに基づくべきだと考えている。天皇によるこのような占領方法は、アメリカが琉球諸島に対して永続的な野心を持たないことを日本国民に納得させるだろう」(「分割された領土」新藤榮一著『世界』1979年4月号)
 このメッセージでだれもが驚くのは、天皇が米軍に対し沖縄を半永久的に占領しておいてくれと頼んだということと、21世紀のいまの沖縄の現状は、基本的にこのとき天皇が希望した状態のままになっているという事実だ。
 このフィクションは、アメリカが沖縄を信託統治領にすることに、まず日本が同意する。そのうえで「実際に信託統治を開始するまでのあいだ」、米軍が沖縄のすべての権力を独占的に握るというトリックとして具現する。このような安っぽいトリックが実際に成立したのは「昭和天皇と日本の支配層がそうした構想に同意していたから」だった。〉


 日本の歴史教育は、たいてい終戦で終わります。その後は、「国民主権、平和主義、基本的人権の尊重という三本柱を備えた日本国憲法ができ、経済復興を成し遂げ、経済大国として国際社会に復帰する。めでたし、めでたし」とまとめられます。しかし現実には、たくさんの矛盾を含んだ悩ましい国であります。矛盾の具体例が、なぜか止められない原発であり、在り続ける米軍基地であり、憲法改正(どう見ても憲法改悪)の動きです。「めでたし、めでたし」どころではない国の不幸がそこにはあります。
 この不幸がいつまでも続き、一向に解決の方向に向かわないところが、この不幸をさらに大きくしています。その原因は、敗戦を挟んで起こった日本の変革の歴史が明らかにされていないために、問題点も原因も、国民にしっかりと伝わっていないところにあります。戦後の変革の経緯はブラックボックスの中に閉ざされていたのです。
 この本で矢部氏が明らかにしようとしていることは、まさにこの点、ブラックボックスをこじ開けて中身を見せることです。昭和天皇の果たした役割が最終章で明かされますが、変革の経緯がそっくりブラックボックスに入ってしまった原因は、まさに、昭和天皇が深く介在していたからだということが推測できます。
 ちなみに、この書でも引用されている『木戸幸一日記下巻』は1966年7月に刊行されており、昭和天皇の関与がまったく闇の中だったわけではなく、研究者はそれなりに事実を調べ公表してきたものと思われます。結局、マスコミの自主規制や、保守政治家の恣意的操作により、こうした史実が国民の眼には触れにくいようにされてきたものと思われます。

 まだ、続きますが今日はこの辺で。お読みいただきありがとうございました。

nice!(26)  コメント(8)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 26

コメント 8

majyo

見事に整理・まとめをされています
感謝と共に、これをまた使わせて頂く日があるかと思います
こんな不幸は、次の世代に引き渡してはいけませんね
著者はトリックという言葉を使まいましたが、これはだましです
過去に真実が語られた事もあるのですが、スルーされ
良いように戦後の歴史は利用されました。

続きを楽しみにしています
by majyo (2016-06-25 19:51) 

momotaro

majyo 様
> 見事に整理・まとめをされています
おありがとうございます!
どの指摘も大事で、まとめようがない本です。悪戦苦闘しております。
> こんな不幸は、次の世代に引き渡してはいけませんね
そう思うのですが、戦争に負けて世の中が変わった(民主化された)ことを不幸だと捉えている人もいるようですから、この作業、なかなか難しいですね
> 続きを楽しみにしています
はーい、頑張ります、楽しみにしてもらえるうちが花ですから…
by momotaro (2016-06-25 23:38) 

ファルコ84

一度読んだはずなのに!
分かりやすく纏められています。
>戦後の変革の経緯は
>ブラックボックスの中に閉ざされていたのです
書に書かれている事実を
知ることにより
これからの日本がどうあるべきを
考えるきっかけになりますね。
by ファルコ84 (2016-06-26 00:07) 

momotaro

ファルコ84様
毎度コメントをありがとうございます!
> 分かりやすく纏められています。
三分の一ぐらいの量に纏めたいのですが、それが難しくて・・・
> 書に書かれている事実を知ることにより、これからの日本がどうあるべきを
考えるきっかけに・・・
したいものですが、自分のくらしに直接影響が出てこないかぎり、あまり考えようとしない人が多いんでしょうね。
教科書が変われば、段々変わってくるのでしょうが。
by momotaro (2016-06-26 07:00) 

トックリヤシ

国の閣僚官僚はこの書の内容をどのように捉えているのでしょう・・・。
単にフィクションとして捉え、
このままブラックボックスは開けない方がいいと考えているんでしょうか。
民主主義にはまだまだ遠いようです。。。
by トックリヤシ (2016-06-26 13:50) 

gonntan

大日本帝国の体制維持が至上命題だったなか
それに対抗しうる反対勢力が天皇家の中にも
政治家や軍人の中にもいなかったことが
戦後において、戦前の政治勢力を正当に引き継ぐ者が
名乗りを上げることができなかったから、戦後の政治的混乱が
あるのだと、内田樹先生が仰ってますね。
手が真っ白の者はいないけれど、せめて灰色の者がいれば、
日本は国連でも敵国条項の中に入らなくて済んだかもしれない、と。

by gonntan (2016-06-26 22:28) 

momotaro

トックリヤシ様
今の政権は特定秘密保護法を作るくらいですから、真実を伝えて国民の判断に従う気など毛頭ないのでしょう。
それ以前も秘密外交ですから、考えてみると、戦後の民主主義は、出発の段階に秘密が多くて、その秘密を死守しながらやってきたので、形式だけ、体裁だけの民主主義なんでしょうね。
早く、教科書にそう書いて欲しいです。「民主主義にはまだまだ遠いようです。。。真の民主主義を目指しましょう!」
by momotaro (2016-06-27 04:01) 

momotaro

gonntan 様
> 戦前の政治勢力を正当に引き継ぐ者が
名乗りを上げることができなかったから、戦後の政治的混乱がある
内田樹氏の仰ることは意味深ですよね。
名乗りを上げる者がいれば、議論ができたのでしょうが、名乗らぬまま、地下に潜伏していて、ほとぼりが冷めた頃、急に登場して、議論もせずに世の中を元どおりにひっくり返そうとしているのが現状なんでしょうね。
一言で言って「卑怯」です。「日本のこころ」など語る資格のない輩!と思います。
by momotaro (2016-06-27 04:03) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。